Alnilam
昼に設計した基板が翌朝には手元にある、卓上プリント基板製造機
- サイエンスキャッスル2021 第5回THK賞 ベスト開発賞・奨励賞
- 技育展2022 ハードウェア・組み込み部門 最優秀賞
- NEDO NEP 開拓コース 採択(2026)
プロジェクト概要
両面プリント基板を卓上で数時間のうちに製造できる装置です。いわば、3Dプリンタの基板版です。高校のロボコンで基板外注の1週間待ちに苦しんだ経験から開発を開始し、サイエンスキャッスルTHK賞と技育展最優秀賞を経て、現在はNEDO NEP開拓コースの採択を受けて事業化を推進しています。
開発の背景
ロボカップジュニアのロボットを開発していた時期、プリント基板は海外工場への外注でした。送料が高額で、発注から到着まで1週間を要します。その間、開発は停止します。試行錯誤の回転数こそが開発力の源泉であるにもかかわらず、基板だけが毎回開発を停滞させていました。更に、これは私だけの課題ではなく、ロボコンに挑む学生も、試作を繰り返す研究者も、同じ待ち時間を強いられています。
構想段階に描いた完成イメージのスケッチ3Dプリンタは、着想した形状を当日中に出力して検証できるようにしたことで、筐体の設計を一変させました。同様に基板の製造も卓上で完結できれば、試行錯誤の回転数が向上し、学生や研究者の開発は格段に加速するはずです。ところが、それを実現できる装置は市販されていません。存在しないなら自ら製作しようと決意し、Alnilamの開発を開始しました。
開発した装置
スルーホール。基板配線の表と裏を接続する縦穴両面基板の製造における最大の難所は、表と裏の配線を接続するスルーホールの導通です。既存の卓上CNCはこの工程に対応できず、対応できる産業用装置は数百万円に達する上に、薬液を扱う専用設備が必要です。Alnilamは、機械加工と化学処理の組み合わせでこの課題を解決しました。
工程は3段階に分かれます。まずGRBLベースのCNCで銅箔を切削して配線パターンを形成し、穴あけと外形カットも同一の機械で完結させます。次に、独自の薬液を使った無電解銅メッキで、スルーホールの導通を確保します。この薬液工程には既製の手順が存在しなかったため、知人の化学の専門家をチームに招き入れ、文献調査と実験を繰り返して一から確立しました。最後に電解精錬とレジスト処理を施して完成させます。
スルーホールの導通を確保する無電解メッキの薬液工程
両面プリント基板の製造工程フロー
Alnilamで加工したプリント基板
内製の制御アプリ、Alnilam Controllerの画面装置だけでは道具になりません。KiCadなどが出力するガーバーデータをG-Codeに変換して装置を一貫制御するPython製アプリ、Alnilam Controllerも内製しました。基板CADのデータを読み込んでボタンを押せば製造が開始される、という使用感の実現を図っています。
ガーバーデータからG-Codeへの変換の流れ受賞と事業化
発表の場へ出展するたびに、評価と仲間を獲得していきました。
発表資料より。両面プリント基板ができるまで2021年、リバネスの研究発表会サイエンスキャッスルで第5回THK賞のベスト開発賞と奨励賞を同時受賞しました。最優秀賞相当です。副賞のメンタリングではTHKの専門家からアクチュエータの活用方法と開発の要領について指導を受け、その後の設計に直接反映しています。
工場外注(1週間以上・3000円以上)との比較。Alnilamは4時間・800円程度2022年は技育展でハードウェア・組み込み部門の最優秀賞を受賞しました。全国の学生エンジニアから得た意見が、その後の改良の指針になっています。2023年にはテレビ東京 THE名門校の密着取材でも紹介されました。
Alnilamの社会実装によって期待される効果の整理大学入学後は事業側に軸足を移しました。2024年のJETRO J-StarXスタンフォード派遣ではAlnilamを題材に英語ピッチ “Trial and Error.” を作成し、米国市場への参入余地を検証しました。そして2026年、NEDO NEP開拓コースに採択されました。現在は特許出願、キット化の開発、高校へのキット試験提供の準備、毒劇法関連の安全性資料の整備を並行して推進しています。東京大学 本郷テックガレージのSFPでも、この事業仮説を検証しました。